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「あなたの母親、百合乃さんは、私の腹違いの姉になります。私の父、博嗣が結婚前に別の女性ともうけた子供です」
彼は一度言葉を切って、目を伏せた。長い睫毛が目許に深い影を落す。
「博嗣は百合乃さんを認知しませんでした。八雲の家は旧い家です、長子であることが特別の意味を持ちます。……たいへん失礼な言い方ですが、〝外の子〟である百合乃さんを長子にするわけにはいかなかったのだと思います。それは、妻との子である私でなければならなかった。認知せずとも、せめて生活の面倒ぐらい見ていたと思いたいのですが、私はよく存じません。百合乃さんはさぞ苦労されたのではないかと――父のしでかしたことながら、本当に申し訳なく思います」
なにも言うことができなかった。沙璃が生まれたときには祖母は既に没していた。祖父母は病死した、そう教えられて疑問を持つこともなかった。
静まった場を潤すように、諒は淡く微笑んで見せた。
「百合乃さんとは子供の頃にお会いしたことがあるのです。闊達で美しく、聡明な方でした」
その微笑がまた翳り、いささか皮肉を含んだものに変わる。
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