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話を聞き終えた諒は沈痛な面持ちで眉を寄せた。
「そうだったのですか。あの日、強引にでもここにお連れするべきでした」
ため息。
「私が誰かを説明するには、百合乃さんの出生について話さねばなりませんでした。ですから、あの場で打ち明けるのは躊躇われたのです。あなたもそれどころではなかったでしょうし……」
小さく首を振る。そして、もういちど浅く息を吐いて、沙璃を見つめた。
「ねえ、沙璃さん。あなたさえよろしければ、落ち着くまでここで暮らしませんか?」
文字通り目の前が明るくなった。だが、申し出に飛びつくのはさすがに図々しく思えた。
「本当に、とても有難いのですが、……いいのでしょうか」
「もちろんです。見てのとおり、この屋敷はひとりで住むには広すぎます。あなたがここにいてくれたら、私は本当に嬉しいです。……それに、百合乃さんには、なにもしてさしあげられませんでした。せめて、あなたにその償いをさせていただけませんか?」
諒は優しい目でこちらを見ている。沙璃はちらりと柊二を仰いだ。彼は仕える立場の者らしく静かな表情を保っていた。諒に視線を戻す。促すような淡い笑み。一拍置いて、沙璃は頷いた。
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