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「十和田沙璃さん。先ほど話しました、僕のただひとりの姪です」
沙璃は膝の上で手を揃え、頭を下げた。
「沙璃さん、私の――いえ、僕のことは、どうぞ諒と呼んでください」
にっこりと微笑まれて、沙璃は言葉に詰まった。こんな丁寧に話されるだけでも困惑しているのに、下の名前で呼ぶ? 親ほど年の離れた人間を? 兵働と柊二も眉を顰めた。
「い、いいえ、それは。その、八雲さんと……」
「叔父さんでいいでしょう」
呆れ顔で柊二が口を挟んだ。
「いいかげん、四十過ぎて抵抗するのは見苦しいですよ」
叔父だから叔父さん。
それはもっともなのだが、その音には中年の男性の意味もあるので少々躊躇われる。
「僕は別にかまいませんが、沙璃さんにだって心の準備があるでしょう。そんないきなり、昨日今日会った人間を叔父と呼べと言われても」
「昨日今日会った人間をファーストネームで呼ぶほうが勇気がいりますよ」
「……だって、僕は叔父ですよ?」
「だから叔父さんでいいでしょうに」
ぽんぽん言い合うふたりに、更に兵働が口を挟んだ。
「十和田様も諒様とお呼びすべきかと」
それもかなり呼びにくい。必死で妥協案を探した。
「あの……でしたら、叔父様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「ええ。とても良い響きです」
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