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少し早いけれども、もうおやすみなさい。
食事のあと諒がそう言って、沙璃は兵働に連れられ客用寝室へと向かった。
三つ折れの階段を上がり、ウォールライトの照らす長い廊下を行く。ひとの気配はなかった。気になっていたことを尋ねた。
「叔父様のご家族はどちらにお住まいなのですか?」
「ご両親ともお亡くなりになりました。八雲のご本家はあの方おひとりです」
背を向けたまま兵働は答えた。
――独身なの? あんなに綺麗で、こんなおうちの当主なのに?
兵働は冷たい目で沙璃を見遣った。
「諒様のことは諒様にお聞きくださいませ」
「す、すみません……」
探りを入れたと思われたのか。全身が恥ずかしさに熱くなる。館は驚くほど静かで、兵働が呆れたように洩らしたため息さえはっきりと聞こえた。
夕方、浴室に案内されたときと同じように扉の前で森下に引き渡された。
あてがわれた二階東側の客用寝室は八畳ほどの広さで、ベッドや安楽椅子等が置かれていた。先に使った浴室はこの部屋付きのものらしく、浴室と手洗いに続く扉がひとつずつ。そういったあれこれを説明してから、森下は壁の真鍮のボタンを示した。
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