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心の中で語りかけてみたが、返事のかえるはずもない。代わりに窓ガラスに映った自分がじっとこちらを見つめている。
百合乃と諒の共通点を探した。背の高いところは似ていた。茶がかった髪や瞳も。細かな造作はどうだろう。二重の目許が少し似ている気もした。並んできょうだいだと言われれば、父親似と母親似なのだと思うかもしれない。母親が違うとそんなものなのだろうか。
手を離すと、重いカーテンは自重で閉じた。
《百合乃さんは、さぞ苦労されたのではないかと――》
なにも聞いてはいない。ただ、娘には大学を諦めさせたくないと言っていた。百合乃は看護師だったが、本当は大学に行って薬剤師になりたかったと酔って洩らしたことがある。
祖父の名は八雲博嗣といったか。これだけの屋敷に住む人間にできないことなどあるのだろうか。もし彼が生活を援助していたのなら、母は進学を諦める必要はなかったのではないか。そして、沙璃自身も――……。
沙璃は自分が酷く惨めだと感じた。その何倍も、あさましいと感じた。
――もう、寝よう。
ナイトウェア代わりの薄いバスローブに着替え、顔を洗い、ハンドクリームを塗って手袋を嵌めた。
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