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朝。髪には甘いカモミールの香りが残っていた。
昨晩はとにかく泣いた。母親が逝ってから、泣く暇さえなかった。いままで抑えていた様々な気持ちが塩水になって流れでたようで、気持ちは軽いが目蓋は重い。この状態で素顔を晒すのは躊躇われたが、化粧品はインターネットカフェに残したハンドバッグの中だ。
昨日着ていた服が洗濯され、修繕されていたのでそれを着た。森下たちはいつ眠っているのかと不思議に思いながら心の中で礼を言う。デコルテを隠すためのスカーフが添えてあったので素直に借りた。薬の礼も言わねばならない。手荒れはほぼ治まっていた。
着替えを終え、豪奢な屋敷をスニーカーで歩いていると見学者の気分になった。あちらこちらに飾られたステンドグラスが朝の陽にきらきらと美しい。
とりあえず一階に下りて、食堂を覗く。
諒は既に席にいて、のんびり本など捲っていた。今日の服装は淡いグレイッシュローズのジャケットにオフホワイトのシャツ、ワインレッドのアスコットタイ。優しい色が余計に肌を白く見せた。沙璃が声をかける前に、気配に気づいたらしく本を閉じる。
「叔父様、おはようございます」
慣れない呼びかけ。
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