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朝食は健康的なイングリッシュブレックファストだった。昨夜同様、諒はとても上品にゆっくりと食べる。彼の一口は小鳥のように小さい。客人である沙璃はできるだけそのペースに合わせようとするのだが、どうしても先に食べ終わってしまう。
間が持たないなと思っていると、柊二の視線を感じた。
――いま見なくてもいいんじゃない?
がっついたようで居心地が悪い。
それに、昨日のこともある。
胸を借りただけでも気まずいのに、もしもあの痣を見られていたら――。
気にしても仕方がないと思っても、どうしても心が揺れる。
食後のコーヒーを飲みながら沙璃は躊躇いがちに口を開いた。
「今日、荷物を取りに戻ろうかと思うんですが……」
タクシー代をお貸りできないでしょうか。
そう頼む勇気を出す前に、諒があっさりと言った。
「着替えが必要でしたら、外商を呼びますよ?」
――外商!?
慌てて、着替えの入ったバッグをコインロッカーに預けてあるのだと説明した。言いづらかったが、骨壷もそこに預けてあることも。
「ああ……」
骨壷と聞いて諒は困惑したように視線を彷徨わせた。沙璃にとってもそれは母の死を剥きだしにした言葉だ。口にするだけで胸が痛む。
「柊二に車を出させましょう。昨日、怖い目にあったのでしょう? ひとりで歩いてはいけませんよ」
柊二に。
彼がなにか顔に出すかと思ったが、相変わらず使用人の無表情を保っている。
「えーっ、運転するなら僕が行きますよー?」
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