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皿を引きながら隼斗が身を乗りだす。
「お前はこの前ミラーをぶつけたからだめです。大事な姪を預けるのですから、上手なほうに頼みますよ。ねえ、柊二?」
「正しい判断をなされたかと」
「ほら」
少し意地悪に隼斗を見て、沙璃に向かってふふっと笑う。
「どうぞ、お気をつけて」
「ありがとうございます」
いくら姪とはいえ、こんなに優しくされていいのだろうか。フルタイムで働く母のもと放任気味に育った沙璃には、諒の優しさは過保護にさえ映る。
出かけるのは柊二が朝の仕事を終えてからとなった。
しばらくしてそろそろかと探しにいくと、一階廊下、柊二は脚立に上がりウォールライトの電球を替えていた。
「すみません、すぐ終わりますので」
足元、灰のワンピースを着た兵働がしみじみと言う。
「柊二は本当に電球を取り替えるのが上手で」
「ほかに取り得がないみたいな言い方はやめてもらえませんか?」
簡単な作業とはいえ、確かに柊二は手際が良い。骨ばった指は器用に動いた。新しくした電球にガラスのホヤをかぶせて、指の触れた場所を布巾で丁寧に拭う。角度を変えて眺めて、もう一度拭きなおした。そして、軽々とした足取りで脚立を降りて、布巾を兵働に手渡す。
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