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思わずつるりと本音が出たが、別に柊二は気を悪くした様子もない。
開かれたドアから助手席に乗り込むと、本革張りの座席に驚かされた。フロントガラスから見る景色はふだんより低い。つまりは車高が低い。スピードメーターを始め車内のLEDライトはすべてボディカラーと同色に打ち換えられていて、普通は光らない箇所までラピスブルーに光っている。一目でわかるほど金のかかった、クルマ好きの車だった。
「……靴を履いたまま乗って良かったのでしょうか」
また思ったままが口に出た。柊二はいっそ得意げに笑った。
「ひとをなんだと思ってるんですか。クルマは走らせて汚すべきものでしょう?」
――けど、そのあと執念深く洗わなきゃ、この輝きは維持できないわよね?
先程の丁寧にホヤを磨く姿が脳裏に蘇って、思わず座席の上で躯を縮めた。
屋敷を少し離れると、柊二は大きな音で音楽をかけはじめた。口を聞く気はないらしい。それはそれで気が楽だった。なにせこれから一時間半以上ふたりきりだ。
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