233人が本棚に入れています
本棚に追加
得意げに口角をあげた。しばらくふたりとも無言で食べる。柊二はのんびり箸を動かしているよう見えるが、不思議と沙璃と食べるペースは変わらない。
「……辞めた後、結局どこも話がまとまらなくてさ。職も金もねえと私生活もぐっちゃぐちゃんなって、自棄んなってたころに拾われたんだ。最初は運転手みたいな感じで」
柊二は食べる手を止め、伏目がちに笑った。広い肩が震える。
「……あんときは、諒が神様みたいに見えた」
――私と同じだ。
『諒』と呼んだのに耳は引っかかったが、それよりも強い想いがわきあがる。
――同じだ。ぜんぶ失くしたと思ったときに叔父様と会って、救いの手をさしのべられて――。
柊二は少し照れたように話題を変えた。
「それより、そっちも意外だったな。クレーン免許だって? 彫刻やってるなんてどんなお嬢様かと思えば」
「まさか! ほかはともかく彫刻はガテン系よ? つなぎに安全靴に軍手、頭にはタオルで、手にはチェーンソーやハンマーなんですからね。見て、この手」
箸をおき、右手を開いて見せた。手は大きく指は長いが、すらりとした印象はない。手の甲や指に薄く筋肉のついた、しっかりした手だ。
「強そうな手だな」
「ありがと、褒め言葉よ」
「ああ、褒め言葉だ」
そう答える柊二も、しっかりとした大きな手をしていた。
最初のコメントを投稿しよう!