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アパート向かいの大家宅を訪ね、柊二は手際よく事情を説明した。
今日いくつか荷物を引き上げること、後日業者を入れて残りを運ぶこと。
「それから、家賃の件なんですけどね」
柊二が急に切り出したものだから沙璃は驚いた。
――滞納していたなんて言っていないのに。
家賃と聞いた大家の顔がパッと明るくなった。彼から金額を聞くと、柊二は札入れから札を抜き目の前で数えていく。
「剥きだしで失礼します。残りは明日にでも振り込みますので、お待ちいただけますか」
「ああ、いや、ホント助かるよ!」
「こちらこそ助かりました。いままで待っていただいたご親切には、お礼の言葉もありません」
柊二は頭を下げた。沙璃も後ろで深々と頭を下げる。
「いやいや、頼りになる親戚がいて本当に良かったねえ!」
頭をあげると、大家の顔はずいぶんと晴れ晴れとしていた。
一車線の道路を渡れば、沙璃の住んでいたアパートはすぐそこだ。
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