雨雪

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 ハイツと名のついた小さな二階建ての共同住宅の前で、手入れの悪いミモザが風に揺れていた。  雨の染みた外壁。塗装の褪せた金属ドア。赤錆の浮いた外階段……。  住む人がいなくなれば、ますます古く侘しく見える。  大家から渡された鍵をくるくるとまわしながら柊二は外階段を上がっていく。それを追いながら、沙璃はばつの悪い思いで口を開いた。 「あの……ごめんなさい。お家賃。それから、あなたにまで頭を下げさせて」 「いんや、別に。頭ぐらい下げるのタダだし、立て替た分は後で諒様から貰うし。なによりあんたが世話になった相手だしな?」 「どうしてわかったの? 払ってないって」 「……葬式当日に荷物置いて出て行くやつが家賃を全納してたとは思えないから」  ぐうの音も出ない。  古びた軽い扉を開くと、六畳二間にあふれる鳥の彫刻に柊二は息を飲んだ。 「すごい、な。これぜんぶ、あんたが彫ったのか?」 「うん。これでも大きなものは処分しちゃったけれど」  狭い玄関で靴を揃えながら沙璃は答えた。 「だいたい二ヶ月にひとつ課題があって、その間にあれこれ展示会をやったりで」 「売ったりは?」 「売れたら喜んで。石鹸はよく売れたかな」     
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