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そういうの、と靴箱の上、白鳥のレリーフを施した石鹸を目で示す。柊二はすごいな、と何度もくりかえした。
「後日、業者入れてぜんぶ倉庫に運んで、そこで仕分けたらいいと思うんだ」
「うん。とりあえず着替えとか詰めてくる。適当に座ってて」
といっても狭い六畳二間。お互いの行動は丸見えに近い。その状態でアンダーウェアを詰めるのは躊躇われたが、背中で隠してなんとか行う。柊二は結局立ったまま沙璃の作品をひとつひとつ覗きこんでいた。
「こっちは、ぜんぶ石?」
「うん、石彫が専門だから」
それに、木で彫った小鳥たちは棺に入れてしまったから。
「それは諫早石。大好き。あ、そっちは本小松石。ホント高かった!」
「いや、石の種類を聞きたいんじゃないんだけどね。触って大丈夫?」
「石だもの。丈夫。どうぞ」
柊二は靴箱の上の丸いヒヨドリを手に取った。ベージュのそれは沙璃の言う諫早石、肌理細やかな砂岩に彫られたものだ。両手に乗るほどの大きさのそれを両手で包みこむように持ち、長い指を胴の丸みに沿わせた。指先で羽をそっと撫でる。その仕草に沙璃は深い共感をおぼえた。
彼もまた手で見る人間なのだ。
沙璃にとって最も大切なのは触覚だった。他人がまず見て知るのと同じように沙璃は手で触れて知る。指で、手のひらで。温度を、硬さを、フォルムを。
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