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「ありがとうございました」
一通り荷物を詰めて、大家へと鍵を返しにいく。
出迎えたのはよそゆきを着た大家夫人だった。いま帰ってきたところらしい。
「あら、あんた、まあ!」
柊二を覚えていたのか大声を出す。もっとも、あの日の参列客の多く、特に女性は諒と柊二の姿を覚えているだろうけれども。
「ああ、遠縁の者ですよ。遠縁」
大家にしたのと同じように爽やかな笑顔でいなす。
大家が夫人に向かってなにかをささやいた。
荷物を……、家賃を……。おそらくそんな話ではないか。
「それどころじゃないんだよ! 昨日、変なのが来たんだよ。あんたを探しに!」
夫人は沙璃に掴みかからんばかりの勢いで言った。大家が慌てた。
「ぼ、僕は聞いてないよ! なんにも!」
「あんたに話したってしょうがないだろう? ……見るからに柄の悪そうな男でね、行き先をしつこく尋ねてさ。もちろん私は黙っていたけどね!」
知らないのだから答えようもなかったろうに、顔も声も恩着せがましい。それでも沙璃は礼を言い、頭を下げた。
柊二がこちらを見ているのが感じられた。きっと青ざめていたのだろう。
――あの男だ。やっぱり、私を探している……。
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