雨雪

49/52
224人が本棚に入れています
本棚に追加
/403ページ
「なんなんだい、あんたね、まさか悪いところから借金でも……」  その場はうまく柊二が誤魔化して急ぎ足で大家宅を辞した。 「だいじょうぶか? 真っ青だぞ」 「だって、家にまで来られるなんて……」  身震いしながら、インターネットカフェで絡まれたのだと明かした。利用時に提出した身分証明書から住所を知ったに違いないとも。柊二は怪訝に目を細めた。 「……あんた、なにしたんだ?」 「別に、なんにも」  反撃したからだ。傷を残したからだ。だから、報復しようとしている。  だが、柊二たちは沙璃は恐喝されて逃げただけだと思っている。 「わ、私が被害届を出すって思ったんじゃないかしら。だから口止めしようとして……」 「出したほうがいいんじゃないか?」  家にまで押しかけてきた。その事実が柊二の眉を顰めさせる。 「ことを大きくするほうが怖いわ。それに面倒は嫌よ」 「……ま、引越したしな。あんな山奥にいるとは思わねえだろうし」  ぽん、と頭に手を乗せられて、軽く掻きまわされる。  やっぱり大きな手だ。  そう思ってしまってから、沙璃は軽く柊二を睨んだ。 「だんだん子ども扱いしてくるわね?」 「そうされたそうだったから?」  少し意地悪く笑って、またぽんとひとつ。 「……私、はたち過ぎてるんだけど」     
/403ページ

最初のコメントを投稿しよう!