雨雪

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「たとえあんたが四十でも五十でも、甘やかされるべきときはあるんだよ」  淡と静かに言われてしまうと、なにも言い返せなかった。  並んで車へと向かう。こんなに派手な車に段ボールが積んであるのはどうにも妙な感じだった。  沙璃は助手席に座って、膝の上の骨壷を大切そうに抱えた。  走りだしてすぐ道路工事にぶつかった。いわゆる働く車を横目に、ふと尋ねた。 「なにを作ってたの?」 「ラフタークレーン。なんて言やいいかな、タイヤがついてて、ひとりで走れるやつ」 『うち』の次は『ひとり』だ。クレーン相手に。  車の仕事がよほど好きだったのだろうと思いながら、沙璃は整った横顔を見つめた。 「未練、ないの?」  言ってすぐに後悔して、顔を伏せた。 「ごめん、さっきから。私、訊きすぎ」  だが、気になってしまう。  学費がない。大学はやめることになるだろう。そうすれば、彫刻は続けていけない。少なくても本命である石彫は、騒音や振動、粉塵の問題を考えるととても個人宅でできるものではない。だいたい、機材さえない。  どうやって、柊二は作ることを――好きなことを諦めたのか。 「未練がないとは言わないけどな。ま、いまの仕事もやってみりゃそれなりに面白いよ」     
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