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車を発進させながら柊二は軽い調子で言った。視線は前に据えられている。
「結構なんでもできるなって思ったな。思ってたよりなんでもね。俺、趣味も仕事もクルマだけだったから、ほかのこと覚えるのも面白いんだ。車作ってるときはまるで理解できなかったホスピタリティなんてのも、いまならこういうことかって思える」
声も視線も真摯なものだった。
軸は軸として持ちながらも、次の自分に目を向けている。そんな印象を受けた。
日に照らされた整った横顔は、少し眩しく、さびしくも見える。
「……ま、俺は俺で、あんたはあんただ。ちゃんと考えろよ?」
「うん」
頷いたものの、諦める以外の選択肢なんてない。
あとは気持ちをどう整理するかだけだ。
屋敷に着いたのは午後三時頃だった。
車寄せの前に車を停め、ひとまず骨壷だけを抱いて降りた。
高い日の下、広がる芝の青が美しい。
「今日はありがとう。……実は、久しぶりに笑った」
「そりゃ、…………どういたしまして」
柊二はすっと使用人の顔に戻ってしまった。両開きの扉の片面を恭しく開く。
「お荷物はあとで隼斗と一緒に運びますので、十和田様は先にお部屋にお戻りください」
「わかりました。お願いいたします」
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