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「あの、叔父様、よろしかったら……」
「構わないのですか?」
寝室に入ることに躊躇しているらしい。家の主なのに。沙璃は強く頷いた。
「母さんも叔父様に会いたいと思いますから」
諒は酷く悲しげな表情を浮かべて、沙璃は母の名を出したことを後悔した。
部屋に入ると諒は真っ直ぐに卓の前にゆき、長く黙した。葬儀のときと同じだった。近づきがたい、ここにいるのにいない雰囲気。
やがて、彼は顔をあげた。はっきりした二重瞼の下、茶の瞳が濡れて見えた。
「すみません……」
「いえ……」
なんと言えばいいのか、言葉が浮かばない。
「そうだ、お家賃。助かりました。ありがとうございます。きっとお返ししますから」
「柊二から聞きました。僕はそのあたりのことはぜんぜん気がまわらなくて……返すだなんていいんですよ」
沙璃の反駁を封じるように微笑んでみせ、諒は卓上の鳥に目を向けた。笑みは作り笑みのままだが、目許の表情がやわらぐ。
「可愛らしい。お棺の中の鳥は、やはりあなたが作られたものだったのですね。このメジロは、きょうだい?」
「一応、つがいのつもりで……」
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