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癒し
目を覚ますと傍らに諒が寝そべっていた。
「おっ、叔父様っ!?」
彼は既に起きていたらしく、素っ頓狂な声をあげて飛び起きた沙璃を見つめてにっこりと微笑んだ。
「おはようございます、沙璃さん」
「お、おはようございます……でっ、でも、どうしてここに!」
「言ったじゃないですか、ずっとここにいます、って」
「お、仰いましたけど……だって、でも……あぁ、寒くなかったですか?」
諒がいるのは昨晩同様掛け布団の上だ。咄嗟に手を伸ばして肩に触れると、ひんやりしている。
彼は肩をさする手に一度瞬いてから、ゆっくりと身を起こした。
「たいしたことありませんよ。それに、可愛らしい寝顔がたくさん見られましたから」
ふふ、と笑われては、ぐうの音も出ない。
「すみません……」
「あなたのくせなのですね。けれども、こういうときは、ありがとう、を」
上体をやや下げ、沙璃の瞳を覗きこむ。
明るく透きとおった瞳に、一瞬息を飲んだ。
「あ、ありがとう、ございます……」
「どういたしまして。むしろ僕のほうが楽しみました」
ふふっとまた笑って、先にベッドから降りる。窓辺まで歩み、カーテンを引いた。
白く眩い朝の光がさあっと射しこむ。
「もう、平気ですか? なんでしたら、朝食はこちらに運ばせましょうか」
「い、いいえっ……すみ…………ありがとうございます。だいじょうぶです」
「そう? でしたら、あとで食堂でお会いしましょう」
軽いお辞儀を残して、諒は部屋を出て行った。
――私、なんてことしちゃったの!?
ひとりになった沙璃は頭を抱えた。叔父とはいえ会って数日の男性を寝室に招いて、添い寝をせがんで、頭を撫でさせた挙句――……。
――ああもう! 大人なんだから、ちゃんとしないと!
母は放任気味、母にきょうだいはおらず、ほかの親戚など会ったこともない。自分を甘やかす目上の親族なんて初めてで、調子が狂ってしまう。
はあ、と深く息を吐いてベッドを降りた。テーブルの上の水さしから切り子のグラスにぬるんだ水を注いで、何度かにわけて飲み干す。すっきりとしたミントの味に、少しだけ動揺が落ち着いた。
顔を洗いにいこうとして気づいた。
身に残る、かすかな伽羅の移り香……。
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