暗箱 ※

10/53
216人が本棚に入れています
本棚に追加
/403ページ
 夕食をとることにした。なにを食べようか少し迷って、ローストチキンのパニーニとパンプキンサラダ、タマネギとブラックオリーブがたっぷり入ったニース風サラダを選ぶ。マリネやキッシュは日持ちするだろうから明日以降に食べることに決めた。デパートで惣菜を選ぶとき、諒が傷みやすいものばかり買おうとして困ったことを思い出した。パンプキンサラダはアーモンドチップとレーズンが入っているのが好きだと言っていて、ちょっと子供っぽいと思ったのも覚えている。そういえば彼はシュークリームを買っていた。本人はブランデーケーキを申し訳程度に食べるだけだから沙璃の機嫌を取りたかったのだろう。沙璃だって特に甘いものは好きでもないのに。  小ぶりのシュークリームと注いでもらったアイスコーヒーもトレイに載せた。注いでもらったアイスコーヒーを手にすると、やっぱり幸せな気持ちになれる。  さっきと同じようにダイニングテーブルに移り、遠くから諒を眺めながら食べた。縛られ、動けない彼を見ているととても満足できた。優しく温かなものに身を浸しているようだ。足の裏に少し発汗を感じて、同時に下腹部に軽い疼きを感じた。可笑しくなった。  彼が最後に食事をしてから十二時間ほど経っていた。夕食と朝食の間隔はこのくらい空くのだから問題ないと判断する。ただ、水だけは与えておいたほうがいいだろう。  少し重たかったが、二リットルのペットボトルを三本買ってあった。水道水は苦手なのだと大嘘をついて。本によると、成人男性は日にだいたい一・五リットルの水を飲む必要があるらしい。食物からも水分を補給しているだろうから少し多めに二リットルを目安とする。  食べ物の匂いを消すために、手を洗い歯を入念に磨いた。  常温にした水を介護用の吸い飲みに移す。噛んでも安全なポリカーボネート製だ。     
/403ページ

最初のコメントを投稿しよう!