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雨雪
料金はこちらで払いますから、気にしないように。
タクシーに乗って、一時間半。料金メーターはどんどん上がっていった。
市街地を出、国道、旧道と走りぬけ、ついには鬱蒼とした森の中、狭い山道を一時間近く進んでもまだ目的地には着かないらしい。
痛む躯に山道は堪えた。それに、運転手とはいえ見知らぬ男とふたりきりで山中にいるのも緊張を強いられた。あんなことがあったあとだ。真面目そうな運転手には申し訳ないが、ブレーキがかかるたびに反射的に身構えてしまう。
――知らないひとだというなら、八雲さんたちだってそうなのに。
色の薄い瞳にガラス向こうに広がる暗い森を映しながら、沙璃は自問した。
どうして助けを求めてしまったのだろう。
どうして、助けてくれると言ったのだろう。
「そろそろ着きますよ」
相変わらず何も無い場所で運転手が言って、沙璃はフロントガラスへと目を向けた。窓の外、夕闇の漂いはじめた森がふっと途切れて広い並木道に変わった。煉瓦敷きを模した道は緩やかな曲線を描いて、その先に大きな洋館が聳えていた。
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