救い

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救い

 え、と振りかえったときには、重い扉は既に閉じていた。  幻聴。  一瞬そう思った、だが、確かに右耳で聞いた。  意味がわからなかった。  声は――音だった。感情の混じり気のない、ただの空気の振動。石を穿つ雨の音。  この屋敷から出て行け。  音は確かにそう繋がった。どうして。なぜ。  扉を開けば良かった。扉を開いて柊二を捕まえ、意思を、意味を問いただす。  たったそれだけのことができなかった。  臆病者。心の一部はそう罵る。だが、手も口も動かない。  ふらふらと夢遊病患者のように歩み、客用寝室に戻る。  開かれた窓から舞いこむ常緑樹の香りのする風に少し気を取りなおした。  抱えたままの骨壷の入った桐箱を安楽椅子の前に据えられた小さなテーブルの上に乗せた。前に立ち、そっと手を合わせる。仏徒ではないが、ほかに方法を知らない。  まもなく隼斗がひとりで荷物を運んできた。沙璃の着替え。それから作品と絵画。  香我さんはどうして来ないの?   そう尋ねれば良かった。なのに、なぜ問えない――。  胸に重たいものを抱えたまま、ひとり梱包を解いていく。  寄り添った二匹のメジロ、首を伸ばしたカササギ、羽を広げたヒメアマツバメ……。     
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