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チャイムが鳴ると同時に、俺の足はふらふらと窓際に吸い寄せられた。残る授業は一つだけど、すぐにでも家に帰りたいと思ってしまうほど心も身体もひどく重い。
ぼんやりと見上げた空の下を、黒い鳥が飛んでいった。緩やかに流れる白い雲を背にふわりと舞い上がり、二回ほど羽ばたいてからぐんとスピードを上げて視界の外に飛び去っていく。
窓辺に肘をついた俺の視線は、さっきまで鳥がいた場所をふわふわと彷徨い続けている。よく見ないと動いているのか分からないような雲を、目で追う気力すらも湧いてこない。
こんな状態だから、授業になんて身が入るわけがなかった。無意識のうちにノートを書く手が止まっていた、なんてことが何度もあったし、先生に呼ばれていたことに気付かなかったりもした。声が無駄に大きいと言われている先生だから、普段なら嫌でも聞き逃しはしないはずだ。
――“α”はもう存在しない。
空っぽの頭に、昨日聞いたばかりの言葉がぽつんと浮かび上がる。俺は静かに目を閉じて、静かに長い息を吐いた。
散々な状態だったけど、クラスメイトも含めてあまり突っ込んだことは聞いてこなかったのは幸いかもしれない。いつもつるんでいる友達が入院したとなれば、授業に集中できなくなるのも仕方ないと思われたんだろう。
淳のことも、もちろん気掛かりではある。だけど昨日、電話越しとはいえ元気そうな声を聞かせてくれたし、少なくとも今週中には退院できそうだと本人の口から聞いている。異空間から抜け出した直後は不安で仕方なかったけど、今では周りが思っているほど不安は抱いていなかった。
だから、なんだろうか。少しでも気を抜けば、灰沢とかいう先輩の言葉が容赦なく俺の心をざわつかせる。
――死んだ奴のことなんか、知りようがないんだ。
あの言葉が放たれた瞬間、俺は雷に打たれたかのような衝撃を感じた。それは美代や葵も、津上先生すらも同じだったらしい。息を呑む音が重なって、俺の耳にもはっきりと届いた。
――今朝……“欠片”に少し光が戻った。砂粒よりも小さくて、まだとても弱々しいけど……確かに見えたんだ、オレンジ色の光が。
先輩の言葉に反応を示したのは、津上先生だけだった。何のことか理解できない俺たちをよそに、「後で詳しく聞かせてもらう」と先輩に険しい表情で言っていたことが、今でも印象に残っている。
そのやりとりがどういう意味だったのか、今日の放課後には俺たちにも詳細を聞かせて貰えるらしい。そのことを美代から伝えられたのは、今朝登校してすぐのことだった。
それからずっと、俺の心は灰沢先輩の言葉に囚われ続けてしまっている。
知りたいと思うけど、同時に知ることが怖くもある。
オレンジ色の光、と先輩は確かに言っていた。だから俺は、嫌でも八年前のあの人を連想してしまう。あの人が既に……この世にいないかもと、考えてしまう。
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