Ep.0 記憶―銀色の幻―

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Ep.0 記憶―銀色の幻―

 あの時のことは、今でもたびたび夢に見る。   四方を覆う、冷たいコンクリートのような壁。  前も後ろも覆い隠す、どす黒い闇。  天井は頭がぎりぎりつかない程度で、左右も両腕を広げる幅すらない。  当時小学一年生だった俺でも、息苦しさを覚えるくらい狭い場所だった。  なぜ、そんなところに迷い込んでしまったのか。  そもそも、ここは一体どこなのか。  当時はもちろん、今でも全く分からない。  悪い夢だったんじゃないかと、いまだに思っているくらいだ。  とにかくあの日、俺は気がついたらあの場所にいた。  何もかも理解できないまま、自分の手元すら見えない闇の中を、延々とさまよい歩いていたんだ。  どれだけ進んでも、出口は全く見えてこなくて。  身も心も疲れ切ってしまった俺は、その場にへたりと座り込んでしまった。  それから、どのくらい経った頃だったか。  ――地面と天井から、低く不気味な音が聞こえてきたのは。  巨大な獣の、唸り声みたいだった。 それも犬や熊というよりは、得体の知れない化け物を思い浮かべてしまうくらい恐ろしい音で。  ついには、壁や空気まで震えだして……俺は恐怖のあまり、その場から動けなくなってしまった。  逃げなきゃって分かってるのに、足が竦んで立ち上がることすらできなかったんだ。  それでも、必死に壁を支えにして、何とか立ち上がって。  一歩踏み出せたときには……既に、手遅れだった。  天井に、大きな亀裂がいくつも走った。  大きなコンクリートの塊が、雪崩のように降り注いできて。  全身を揺さぶるような激しい音が、四方八方から襲いかかってきた。  俺は耳を塞いで、再びその場に座り込んだ。  早く収まってと、何度も何度も頭の中で繰り返して。  音が収まるまでの時間が、永遠とも思えるくらい長く感じられたことを覚えている。  だけど、本当に辛いのはここからだった。  だって、気がついたときには……進路も退路も、瓦礫の山に塞がれていたのだから。
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