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だけど、引き下がるつもりはない。
こんな顔をされるのも、覚悟の上だ。
「俺、自分のADRASすらまともに使いこなせてないし、救助の経験だって圧倒的に少ないし……この間みたいに迷惑かけることも、この先いっぱいあると思う。だけど、少しでも早く一人前になれるように、頑張るから。お前の足を引っ張らないように、津上先生や先輩たちにも色々教えてもらって……一人でもちゃんと助けられるようになってみせるよ」
ひんやりとした風に吹かれ、互いの髪がはらりと揺れる。それを最後に空気の流れが止まって、狭い空間から音が消える。
美代は、何も言わない。瞬きもせず、大きな目で真っ直ぐに俺を見つめている。
芯の通った眼差しに負けじと、俺も美代の瞳をじっと見つめ返す。ひっそりと静まり返った空間で、互いを見つめ合うだけの時間が、緩やかに流れて去っていく。
「……どうして」
先に口を開いたのは、美代だった。
俺を捉える瞳が、微かに揺らめいているのが見て取れる。
「どうして、そこまでしようとするの? ……あんなことがあったのに、どうして」
美代の声が、震えている。「あんなこと」とは、俺が初めて異空災害に巻き込まれた日を……八年前のことを、指しているのだろうか。
俺は美代に背を向けて窓の外を見上げ、深く息を吸い込んだ。薄い雲のかかったオレンジ色の空の下を、小鳥の群れが踊るように飛んでいく。
どうして俺は、何度も危ない目に遭いながらも、人を助けたいと思うのだろう。
疑問に思ったことは、何度もあった。
そのたびに、色んな理由を思い浮かべてきた。
八年前の出来事が、あったから。
“α”への憧れ。美代のことが心配だから――
実際のところ、どれも間違ってはいないと思う。
助けてくれた人への憧れや、助けて貰った身として恥じない生き方をしたいという想いは変わらない。
美代ばかりを危ない目に遭わせたくないという気持ちも、淳を助けに行くと決めた時からより強くなっている。
だけど、それだけじゃなかった。
俺は無意識のうちに、口の端を緩く持ち上げていた。
雛香ちゃんや淳の母親、光井君の言葉を届けてくれた看護師の顔が、次々と頭の中に浮かんでくる。
皆、俺が本当の気持ちに気付く切っ掛けになった人たちだ。
静かに息を吐いて、俺は空を見上げたまま口を開く。
流れる雲の隙間から、澄んだ空が顔を覗かせる。
「俺、気付いたんだ。……結局全部、自分のためだったんだって」
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