Ep.3 覚醒―昏き呼び声―

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 対する新崎さんは小声で何かを呟いたかと思うと、何故か俺をじっと見つめてきた。  やや疲れが滲み出ているものの、きりりとした曇りのない目をしているのが離れていても分かる。松ノ木さんとのやり取りからして、きっと真面目な人なんだろうと俺は思った。だとしたら、松ノ木さんに「クソがつくぐらい真面目過ぎる」と昔から言われ続けている親父との相性は悪くない、のかもしれない。  それにシャープな印象の顔立ちに反して、腕は長袖シャツ越しでも分かる程にはしっかりと筋肉がついていた。二階から見たときは若干細身に見えたけど、こうして近くにいると肩幅は広く、座った状態でも俺よりは身長が高いことも分かる……。そこまで考えて、俺はまだ挨拶をしていなかったことに気付いた。  「えっと、二年三組の一条丈瑠っていいます。まだ津上先生たちと動くようになったばかりですけど、精一杯頑張りますのでよろしくお願いします。……あと、親父がいつも世話になってます」  「ど、どうも……」  新崎さんは小さく呟いてから、「よろしく」と戸惑い気味に挨拶をした。姿勢を元に戻した俺と新崎さんの目線がぴたりと重なり、少しの間互いの顔を見つめ合う形になる。  「あの、どうかしましたか?」  「ああ、ごめん。何か、隊長とは雰囲気が違うというか……」  声を徐々に萎ませながら、新崎さんは渋い顔をして首を捻った。何だそういうことかと、俺は一人で納得する。こういうことを言われるのは初めてではないし、自分でもそう思っているから別に何とも思わない。  「いやいや、つむじの辺りをよく見てみろ。毛の跳ね方がそっくりだろーが」  「そんな細かいところ覚えてませんよ!」  不服そうな松ノ木さんに新崎さんが素早く反応する。俺はつむじ付近の毛をつまんで、近くにいる美代へと目を向けた。  「……そうか?」  「うーん、私に訊かれても……」  「だよな」  美代は眉尻を下げて苦笑いを浮かべる。親父は今でも美代の両親と交流を続けているようだけど、電話やメールでのやり取りがほとんどらしいから美代が会っていなくても不思議じゃないかもしれない。俺のことがあって、今まで関わるのを避けていただけかもしれないけど……。  「お喋りはその辺にして、さっさと座ってくれ。こっちにゃ聞きたいことも、話したいことも山ほどあんだよ」  露骨に不機嫌そうな声に振り返ると、しかめっ面の津上先生が腕を組んで松ノ木さんを睨んでいた。  「ったく、毎度毎度勝手に仕切りやがって……」  ぼやく津上先生に追い立てられ、俺たちは机の前へと移動する。誘導に従って動いていたら、何故か俺が三つ並んだ椅子の真ん中に座る羽目になってしまった。前を向いただけでも新崎さんと目が合ってしまい、どうしても緊張して身体が強張ってしまう。大人とこんな風にに改まった形で話すことなんて、先生が相手でもほとんど経験したことがないのだ。  俺の右隣に美代が、左に葵が腰を下ろす。美代は多少緊張の色が見られるものの、少なくとも俺よりは落ち着いているように感じられた。松ノ木さんと始めて会ったときもこんな感じだったんだろうかと思うと、少しだけ美代が頼もしく見えてくる。  反対側を向くと、ちょうどこちらを向いていた葵とばっちり目が合った。と思ったのも一瞬のことで、何故か素早く目を反らされてしまう。  学年が違うこともあって、葵とはまだあまり話したことがない。たまにすれ違ったり近くを通りかかることはあるけど、知らない女子と一緒にいたり、そもそも何を話せばいいのか分からなかったりで機会を掴めずにいる。今後も一緒に動くことがありそうだし、出来れば仲良くなりたいのだけど……。
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