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膝を曲げないと収まらない、狭く居心地の悪い空間。
真っ暗闇と、埃っぽい空気に苦しみながら……俺はたった一人で、とてつもなく長い時間を過ごす羽目になった。
もしかしたら、実際はそれほど長い時間じゃなかったのかもしれない。
時計なんて当然なかったし、他に人なんていなかったのだから。
だけど、あの時の俺にとっては、永遠にも等しいくらい長い時間だった。
もう二度と帰れないのではと、本気で思ってしまうくらいには……。
怖くて、心細くて、何度も泣いた。
喚いても叫んでも、助けてもらえる望みなんてないのに、喉が痛くなっても泣き続けた。
泣くのに疲れたら、折りたたんだ膝に顔を埋めて、少しだけ眠った。あんな場所でも人は眠れるものなんだって、俺はあの時に学んだのかもしれない。
眠っている間、色んな夢を見た。
母さんに起こされて、学校に行く夢。
友達と遊ぶ夢、どこかの街を歩く夢……。
だけど、目が覚めればすべて幻となって掻き消える。
その後に突きつけられるのは、周囲を埋め尽くす瓦礫の山。
埃っぽい空気と、深い闇。
光と呼べるものは、瓦礫のあちこちに浮かぶ、青白い不気味な模様だけだ。
俺は、現実を目の当たりにするたび絶望して、泣いていた。
何度も何度も、涙が涸れても繰り返し泣き続けた。
やがて、涙も声も出なくなって。
気力も体力も尽き果てて、何度目かも分からない、浅い眠りに落ちかけていた頃。
――また、あの音が鳴り響いた。
閉じ込められる直前に聞いた、唸り声。
今の自分は、もうこの場所から離れることさえ叶わない。
それが何を意味するか、幼い俺にも何となく分かってしまった。
脳裏に過ったのは、いつか散歩中に見かけた虫の死骸。
誰かに踏まれたのか、道の真ん中で無残にも潰れてしまっていて。
何度つついても動かないのを不思議がっていた俺に、母さんがそっと教えてくれたこと。
生き物は、いつか必ず死んでしまう。
時には、どうしようもないほど強いうねりに呑まれて、短い生涯を終えてしまう者もいるのだと……。
あの日、おそらく同級生よりも一足先に覚えてしまった、「死」という一文字。
それが頭を過った瞬間……俺はもう、何も考えられなくなった。
頭の中がぐちゃぐちゃになって、「助けて」って何度も喚いていた。
その直後、だったと思う。
俺の頭上に、クモの巣みたいなひび割れが現れたのは。
――もう駄目だ、って思った。
俺は小さな両手で頭を覆って、目を固く閉じたんだ。
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