18人が本棚に入れています
本棚に追加
――そこから先は、一瞬の出来事だった。
大きな音が、四方八方で入り乱れて。
大小様々な塊が、俺の体を何度も掠めて。
何かが俺に触れて、体がふわりと宙に浮いた。そのまま強く引き寄せられて、凄まじいスピードで宙を駆け抜けた。
何が起こったのか分からないまま、俺はただ身を固くしていた。押し寄せる音や衝撃が、早く収まって欲しいと願いながら。
やがて、そう遠くない背後で、何かが崩れる音がしたのを最後に、音の嵐はぴたりと止んだ。
宙を駆けていた俺の体は、ぴたりとその動きを止めた。
同時に、頬へ打ちつける石の粒や風も感じなくなった。
何が起きたのか確かめたくて、俺は固く閉じていた目をゆっくりと開いた。
ずっと泣いてたせいか瞼が痛くて、視界もひどくぼやけていたけど、暗闇に筋を描く鮮やかな光は、真っ先に捉えることができた。
そして、少しずつ理解した。
俺は今、目の前にいる人に抱えられ、助けられたのだと。
その人は、とても不思議な格好をしていた。
革のように滑らかな、光沢を放つ黒い衣服。
フルフェイスのヘルメットを被っていて顔は見えなかったけど、背中や腰を支える手はとても温かくて、力強かった。
肩や胸は銀色に煌めく金属に覆われていて、まるで鎧を纏っているようにも見えた。鎧はどう見ても硬そうなのに、何故か触っただけで傷がついてしまいそうにも見えた。
その人は何も言わず、俺の顔を見つめていた。
言葉はなくても、「もう大丈夫」だって、優しく言われてるような気がして。
じっと見つめ返しているうちに、心にずっとまとわりついていた黒いものがすっと晴れていくのを感じて、また泣きそうになった。
それで、ずっと張りつめていた心が緩んで、あっという間に眠くなって……。
そこから先は、よく覚えていない。
気がついた時には、病院のベッドの上だったから。
――それが、忘れられない六歳の記憶。
今からもう、八年も前の話だ。
最初のコメントを投稿しよう!