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「あっ……!」
青々とした芝生の上に、手提げ袋がすとんと着地した。そこへ女の子が小走りで駆け寄り、拾い上げた手提げ袋を両腕でしっかりと抱え込む。
「ありがとう、お兄ちゃん!」
女の子はさっきまでの不安そうな顔が嘘のように、弾けるような笑顔を俺に向けた。
感謝されるために行動したわけではないけど、こうやってお礼を言われるのはやっぱり嬉しいものだ。
俺は女の子に微笑み返し、木の葉の隙間から空を見る。
木々の隙間を縫うように流れ込んだ風が、しっとりと汗ばんだ顔や首に心地よい涼しさを運んでくる。
今年は例年より少し寒いと言われてるけど、少なくとも俺にとっては十分すぎるほど暖かい気候だ。
「……ところでさ、何でこんなとこに引っかかったんだ?」
俺は女の子を見下ろし、手提げ袋が引っかかっていた枝へと視線を動かした。
女の子の笑顔が薄れ、表情に少しだけ影が差す。
その反応で、何となく察しがついた。
たぶん、同級生のいたずらか何かで引っ掛けられてしまったんだろう、と。
少し考えれば分かるはずなのにと、俺は自分の考えの至らなさを少し後悔する。
「あ……ごめんごめん。言いたくないなら、別にいいんだ」
気まずい雰囲気から逃れるように、俺は丘の下にある時計に目を向けた。
思いのほか手こずったせいで、結構な時間が経過していたことに気付く。それでも少し急げば、何とか学校には間に合うはずだ。
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