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理科の津上先生といえば、深暮中一の変人として有名だ。
ぼさぼさの頭に、着ている服はいつも皺だらけ。
身なりだけじゃなく言動もいい加減で、隙あらばすぐ居眠りをし始めるという悪癖もある、とにかく困った先生だ。
去年はテスト前の自習時間に居眠りをして、クラス委員の女子に小突かれたうえ説教されるという珍事まで発生している。
あの時の気まずい空気は、当分忘れられそうにない。
もちろん、そういった行動を他の先生たちが放っておくはずもなく。
何度か色々な先生に呼び出されては、割とキツめにお叱りを受けているそうだ。
……と、逸話を挙げればキリがない人だけど、それで済むのならどれだけよかったか。
最も問題なのは、授業中以外はどこを探しても、絶対にあの人を見つけられないということだ。
職員室にはいつもいないし、校内放送で呼び出しても絶対に姿を現さない。
生徒はおろか先生たちでも行動パターンを掴めていないというのだから、用事がある人にとってはたまったもんじゃない。
実際に津上先生に挑んで、無残にも散っていった人たちも多数いる。
去年の秋ごろには生徒会のメンバーが先生たちと手を組み、一斉に校内を捜索したものの惨敗。
文化祭のことで相談したかったらしいけど、その後のスケジュールにも色々と影響が及んだそうだ。
その年の冬には、何故か職員室の休憩スペースでぐったりしている先輩たちを見てしまったこともある。どうやらこれも津上先生が絡んでいたらしいと、俺は後になって聞かされた。
とにかく、それほどに手強い相手なのだ。職員室に行って提出すればいい、という話ではない。
おまけに、いい加減なくせして直接手渡し以外は受け付けてくれない。提出し忘れた宿題を先生の机に置いて帰ったところ、「顔を見せない奴は信用出来ん」などという訳のわからない理屈で突っ返された奴は、今まさに俺の前にいる。
「しょうがない……次の授業で提出するか」
次の理科は、来週の月曜日。いくらあの人でも、事情を説明すればちゃんと受け取ってくれるはずだ。
「あー……それさ、今日中に出さないとヤベーらしいぞ?」
「……え?」
何となくプリントをつまみ上げて弄んでいた俺は、淳の言葉に反応してぴたりと手を止めた。
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