第一章  君がいない街

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 三時にセットしていたアラームが鳴って、バイトに行くための支度をはじめる。支度といってもTシャツを取り替えたり財布をポケットに入れたりするだけだけれど。  俺のアラームが鳴ってゴソゴソ動き出してもびくともしないナオトを蹴飛ばして起こし、俺は狭い玄関へ行く。  ファンタスティック・スノーのメンバー全員、このマンションの一階だ。二階建てだからもちろんエレベーターはついていない。  部屋を出ると図ったように二階の真ん中の部屋のドアが開く音がして、階段を勢いよく誰かが駆け降りて来る。またか、やれやれ、と少しうんざりする。俺は逃げるようにさっさと歩く。  岡島ミユキ。九州から上京してきた、女優を目指している同い年の女の子だ。はっきり言って、有沙の方が可愛い。  ファンタスティック・スノーのメンバーたちは岡島の方が可愛いというから、多分、彼氏のひいき目なのかもしれないけれど、俺には有沙の方が可愛く見えてしまうのだから、もうこれはしょうがない。
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