第一章  君がいない街

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 どうもこの子、はじめて会ったときから俺のことが気に入っているらしい。俺の顔が好みだと、ナオトに言ったのだそうだ。  デビューを目指しているというのは、音楽も芝居も関係なく、いま、同じような立ち位置にいるということだ。  何度俺が、彼女がいると伝えても、こうしてわざと同じ時間に部屋を出て、駅前まで一緒に歩きたがる。階下の様子を伺っているとしか思えないからちょっと怖い。 「いまからバイト?」  知ってて訊いてくんな、と俺の心が拒否反応。どうも、このへん、俺は大人になり切れない。 「ああ、そうだけど」  ぶっきらぼうになってしまう。 「駅まで一緒に行こう」  俺は何も言わず、先を急ぐ。 「待ってよ、カズキくん、歩くの速い」  俺は速度を緩めない。どうにも苦手なタイプで。この子。それに、有沙はいつまで経っても俺のこと「青山くん」なのに、岡島は俺のこと最初から下の名前だもんな。有沙から呼ばれたいよ、カズキ、って、呼び捨てで。
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