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どうもこの子、はじめて会ったときから俺のことが気に入っているらしい。俺の顔が好みだと、ナオトに言ったのだそうだ。
デビューを目指しているというのは、音楽も芝居も関係なく、いま、同じような立ち位置にいるということだ。
何度俺が、彼女がいると伝えても、こうしてわざと同じ時間に部屋を出て、駅前まで一緒に歩きたがる。階下の様子を伺っているとしか思えないからちょっと怖い。
「いまからバイト?」
知ってて訊いてくんな、と俺の心が拒否反応。どうも、このへん、俺は大人になり切れない。
「ああ、そうだけど」
ぶっきらぼうになってしまう。
「駅まで一緒に行こう」
俺は何も言わず、先を急ぐ。
「待ってよ、カズキくん、歩くの速い」
俺は速度を緩めない。どうにも苦手なタイプで。この子。それに、有沙はいつまで経っても俺のこと「青山くん」なのに、岡島は俺のこと最初から下の名前だもんな。有沙から呼ばれたいよ、カズキ、って、呼び捨てで。
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