第一章  君がいない街

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 なだらかな坂道が続いている。四月は、こんなに暑かっただろうか。もう下着が汗ばんでいる。四月でこんなじゃ、七月、八月はいったいどれだけ暑いんだ? ちょっと買い物に出ただけなのに、坂道が面倒くさい。  ぼうっとしたままマンションに戻り、買って来た飲み物をさっそく飲んで、ゴロリと横になった。まだ、レッスン以外、これといって音楽関係の仕事はない。  気づくと桜が散っていた。北海道の地元じゃいつも五月だから、四月なのに桜が散ってしまった事実に軽くカルチャーショックを受けた。  入った事務所『ライズフラッグ』は音楽関係だけじゃなかった。俳優も育てている。てっきり、音楽だけに力を入れている事務所なのかと思っていた。むしろ音楽分野はこれから開拓していく方針だと聞いて、ここで大丈夫か? と少し不安になった。  案の定、ヴォーカルのヨシアキは深夜枠のドラマで俳優デビューさせられそうだ。うかうかしていると俺も危ない。社長のひとこと、「ん? 君、可愛いね」が気色悪くも俺の頭にこびりついて離れない。
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