第一章  君がいない街

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 俺は日に何度も、ここに有沙がいたらどうだろうな、ここに有沙がいたらきっとこうするだろうな、ここに有沙がいたらきっとこう言うだろうな、などと女々しく考える。  男なんて弱っちい。有沙、仕事頑張ってるかな。入社して数日しか経っていないから、いまは研修でいっぱいいっぱいだろうな。疲れているだろうから長電話は控えなきゃ、と自分に言い聞かせてはため息の連続だ。  慣れない東京での生活、毎日耳にする電話の声だけが救いなのに、それさえもままならなくなってしまったら、俺の精神は持つんだろうかと、ちょっと不安になる。  目を閉じればいつでも思い出の中の有沙の映像に会える。来月誕生日を迎えるけれど俺はまだ十八歳。だから、最終的にはエッチな想像に行きついてしまうのがどうにも困る。同室はナオトだ。  有沙と深い関係を結ぶとき、いつも目をつぶっていたらよかった。なぜなら俺はまじまじと有沙の全裸を見てしまったから、記憶が鮮明に焼き付いていて、ちょっとしたことで思い出せてしまうのだ。
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