「竹取の」第1夜<朔日>

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「あれ?日本語通じないのかな? Do you understand Japanese? 日本語話せますか? ニーホエシュオハンユイ? ハングゴル ハル ス イッスセヨ? ……」  流暢な英語の後、何語だか分からない言葉を話し始めた。どうやら、各国語でその言葉を話せるかどうかを尋ねているようなのだけれど、わたしにはさっぱり分からない発音が続いた。その言語が、推定で50言語を超えたあたりで、わたしは口を開いた。 「日本語、日本語。日本語ハナセマス。英語モチョットデスケド」  と、何故か日本人のわたしがカタコトで話す羽目に。 「ああ、よかった。じゃあ、この言葉で話すね。お月様を助けてください。お願いします」 「えっと……お月様って……あの、お月様でいいのかしら?」  わたしは窓の外で煌々と光っている月を指さしてその方にお尋ねした。 「そう、お月様。月、ムーン。地球の衛星。日本では古来より、ツクヨミが神格とされ、『古事記』では黄泉の国から戻ったイザナギが禊を行った時に右目を洗った際に生まれたとされる。そのお月様」  その方は、日本の故事よりの引用を用いる等してわたしに説明を施したが、高校生のわたしは『古事記』を歴史の教科書の一行でしか知らず、ツクヨミどころかイザナギでさえ知らない時分で、さっぱり言っている意味が分からない状態。 「え…っと…そのお月様を助ける…の? わたし…が?」 「そう、君が。君がお月様を助けるの」 「えっと、ごめんね、ぜんぜん意味が分からないんだけど。わたしがどうしてお月様を助けるの? っていうか、お月様を助けるとかぜんぜんムリだし」 「大丈夫、君ならできるから」 「いや、ごめん、ムリムリムリ。わたし、明日英検2級の試験なの。まだ単語覚えなきゃならないのあるし、明日いつもより早い電車に乗らなきゃだし、今晩は早く寝なきゃならないし」 「大丈夫だよ。すぐに済むからさ。そうだな…現実世界で3分もあれば、終わる話だよ。ボクが時間を止めている間に済ませてくれればいいんだ。君の体感時間だと、少しかかるかもしれないけれど、明日の試験には差し障りないようにするからね」 「時間…を止める?ちょっと、ごめん、理解不能。ってか、そもそもあなたが喋るところから、わたしわかんないって言うか、パニックっていうか」
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