「竹取の」第2夜<既朔>

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 わたしはカチューシャで前髪をまとめてあげ、蛇口を捻った。額のニキビが少し増えてきたのが気になる。昨日チョコ食べ過ぎたせいかな。さっきまで目覚ましに軽く水を浴びる程度にするつもりだったのだけれど、わたしは洗顔料を取り出して泡を立て始めた。駅前に新しくできたコスメショップで買ってきたばかりのもので、自然の成分だけですから肌にいいんですよとにこやかに応対してくれたお姉さんが勧めてくれたものだ。説明書の通りに液体を手に取り、両手で撫でていくとすぐにふわふわの泡になった。 「パパこそ、今日日曜日なのに早いのね」  わたしは泡を立てながら、扉の外で新聞を読んでいるパパに聞いてみた。いつもなら日曜日は昼間で寝ているのが習慣だから、お互い珍しい光景ではあるのだけれど、特に何かの返事を期待していた訳ではないけれど、そこでウロウロしているということは、何か話したいことがあるのかも知れないと思って、話を合わせてみた。 「ああ。今日は接待ゴルフなんだ。7時には家を出なきゃならない」 「そう。日曜なのに、大変ね」  大量の泡をせっせと作りながら、わたしはオウム返しに答えた。撫でれば撫でるほど泡が立つ。少し楽しくなってきた。  と、なんとなく作っていた泡が、まるで生き物のような形になって、夕べのあの月面生物のように見えてきた。 「ああん…もう」  せっかく忘れかけてきたのに、またあの記憶が蘇った。わたしはその泡を両手で潰してそのまま顔に撫でつけた。 「ん?どうした?」  パパの心配そうな声が聞こえたが、あわあわの顔では返事ができない。 「んーん」  というのが精一杯。 「大丈夫か?」     
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