「竹取の」第2夜<既朔>

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 と言ったきり、パパは黙った。愛娘が心配なのは分かるけど、こんなとこで何かあったりはしないから、あんまり心配しすぎるのも困ったもので。わたしは急いで洗顔料で顔を洗って、水で洗い流した。その間、廊下ではウロウロする家主の物音がしているのをわたしはイライラしながら聞いていた。 「もう、大丈夫だってば!」  さっぱりと泡を洗い流してからわたしはそう言った。タオル掛けからタオルをとってさっさと顔を拭いてから、カチューシャをつけたまま洗面所の扉を開いた。 「どうぞ」  廊下でウロウロしている熊のような巨体にそう声を掛けた。パパは背中を丸めながら、 「あ、ああ……」  と言って、所在なげにわたしと入れ替えに洗面所に入っていった。歯ブラシを取り出して歯を磨く音がした。 「あら?どうしたの?」  わたしの声を聞いてか、ママが居間から顔を出した。 「あら珍しい、こんなに早くに」  パパがゴルフに行くので、ママも早くに起きたのだろう。エプロン姿だった。 「目さめちゃって」  わたしはタオルで顔を拭きながら答えた。 「英検、何時からだっけ?」 「1時。12時半に駅前で待ち合わせしてる」  英検の会場は駅前にある市民会館で行われることになっている。ちーちゃん達とは余裕をみて30分前集合にしていた。それにしても、早く起きすぎた。 「パパと一緒に朝ご飯食べちゃう?そしたら、ママ助かるなぁ」  部屋に戻っても集中できそうにないし、そうしようかな。 「わかった。食べる。ちょっと着替えてくるね」 「さんきゅー!」     
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