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ダメだ、自分まで泣いたらダメだ。
ダメだ。
そう思っていても、僕の目からは涙がこぼれはじめた。
すぐに僕は涙を手のひらで拭う。しかし涙はどうしてか止まらない。
どうしたらいいんだろう。お金がないのに家に帰る方法は何なんだろう。
「君たち?」
泣いている僕らを不思議に思ったのかスーツ姿のサラリーマンが声を掛けてきた。
「理沙、こっち!」
怖くなった僕は理沙の手を引っ張り走り出した。理沙は涙を流したまま駆け足で僕に着いてくる。
引っ張ってはみたものの僕はどこに行けばいいんだろう。
「陽くん、手、痛い」
理沙の声に僕は振り向いた。
「走りながら余所見はするな」という父の教えが、急に頭の中で蘇った。次の瞬間、僕は、バランスを崩した。理沙の手を離したので理沙を巻き込むことはなかったが、僕は派手に転んだ。
アスファルトに身体を打ち付けられ、痛みが走った。
理沙が「陽くん!」と叫んだ。
身体を起こしながら、右の掌がジンジンと痛むのをかんじた。アスファルトで切ったらしく、血が出ていた。
「血が出てる!」
理沙はポケットからハンカチを出して僕の手に当てた。
「大丈夫だよ、これぐらい……え?」
僕は、理沙の顔を見て言葉を失った。
理沙の目は真っ赤だった。
理沙の不安が伝わった。
僕は何をしているんだろう。
もうダメだ。
何でもいいから、理沙を帰らせてあげなきゃ。でもどうやって。
僕が泣いちゃダメだ。
でも、涙が出そうだった。
今にも涙が流れそうな、その時だった。
僕と理沙の目の前を自転車が横切った。
冷たい空気を切り裂くようなブレーキ音とともに自転車が止まった。
夕暮れ時の薄暗さで、それが誰なのかはわからなかった。
大きな影が自転車から降りた。自転車は大きな音を立てて横に倒れた。
戸惑う僕と理沙に、その人物は白い息を吐きながら走ってきた。長い髪と背の高いそのシルエットを僕は知っていた。
僕は今度こそ涙を止めることができなかった。一気に涙が溢れ出した。
僕は涙声で名前を呼んだ。
「サヤカ…せんせぇ…!」
「陽くん! 理沙ちゃん!」
サヤカ先生はしゃがみ込み、僕と理沙を抱きしめた。
「どうして! どうして二人だけでこんなところまで! 何やってるのよ!!」
サヤカ先生の抱きしめる力は痛いぐらいだった。
サヤカ先生はの怒った声は、久しぶりに聞いた気がした。僕は嬉しいのか悲しいのか自分の感情がわからず、ただ声をあげて泣いた。
理沙も大声で泣いていた。
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