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その後、僕は新逗子駅まで迎えにきた両親にこっぴどく怒られた。そして、サヤカ先生に必死で謝っていた。僕がサッカーボールで教室の窓を割った時よりも必死だった。
いよいよ帰ることになり、新逗子駅の改札口に入ろうとした時、「陽くん」とサヤカ先生に呼ばれた。
振り向いた僕の目線にあわせて、サヤカ先生がしゃがみこんだ。
「陽くんのこと、ずっと応援してるよ。日本代表になったら観に行くからね」
僕は「絶対だよ」と指切りをした。先生は微笑み、そして、さっきみたいに痛みなど感じさせない優しさで僕を抱きしめてくれた。
「素敵な大人になってね」
その言葉を聞いて、僕はまた「早く大人になりたい」と思った。
帰りの電車の中で、僕は理沙に借りたハンカチがポケットに入ったままであることを思い出した。
広げてみると、さっき転んだ時の血が少し付いていた。さすがに洗わなければと僕は思った。
「これ、ママに洗ってもらったら返すな」
「うん、今度でいいよ」
と理沙は微笑んだ。
しかし、その今度は来なかった。
その数日後、理沙が北海道へ引っ越したと実夏から聞いた。
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