エピローグ

2/2
23人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
 あれから七年の時が流れた。  今のところ、僕にJリーグからのオファーはやってこない。  僕がマンションのエレベーター前に立っていると、実夏がやってきた。  僕は公立中、実夏は私立中なので最近会う機会が減っていた。  実夏は僕の持つ葉書気づき、 「陽にも来たんだね。私にも届いてた」  と実夏は、手に持っていた葉書を見せた。同じく白い家が映っていた。 「理沙、元気そうだね」  写真の中の理沙は、楽しそうに笑っていた。   *  小学生になってから聞いた話だが、実夏は理沙から引っ越すことを事前に聞いていたと言う。  理沙は実夏には話していたのに、僕には教えてくれていなかった。   「なんでオレには教えてくれなかったんだろうなー?」  と僕が言うと、実夏は怖い顔をして 「本っ当にバカ! 理沙はサヤカ先生にも会いたかったけど、あんたともずっと一緒にいたかったの!」  と僕の頭を叩いた。  幼い僕には、女の子の気持ちなど理解できるはずもなかった。自分が理沙に好かれていたとは一ミリも思っていなかった。 * 「北海道ってすげーな。こんなでかい家を建てられるんだな」 「そりゃあ横浜なんかより土地がいっぱいあるしね」 「一回行ってみたいなー」 「北海道は遠いよ?」 「なんとかなるんじゃね?」  まだ僕は中学生だ。大人にはなっていない。  しかし、今ならスマホもある。ちょっとならお金もある(BY お年玉)。  北海道ぐらいなら行けるような気がする。  そこまで話しているとエレベーターがやってきた。僕と実夏はエレベーターに乗った。  4階のボタンと、実夏の住む8階のボタンも押す。  扉はゆっくりと閉まった。  僕はクローゼットにしまったままのハンカチを思い出す。  「郵送でお返ししようかしら」と母は言ったが、「オレが会って返す」と言ったまま、未だに会うことはなく返せていないままだ。  今年の夏ぐらいに返しに行ってみようか。  エレベーターは4階に着き、僕だけが降りる。 「ねえ、陽」  背後からの声に僕は振り向く。  実夏はイタズラをする時のように口元が笑っていた。あまりいい予感はしない。 「なに?」  遠慮気味に僕は尋ねる。 「あのさ」 「んー?」 「今度はさ……」 「え?」 「今度は……、私も連れてってね?」  悪魔の微笑みを浮かべる実夏の言葉に、僕は苦笑いを返した。  エレベーターの扉はゆっくりと閉まった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!