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あれから七年の時が流れた。
今のところ、僕にJリーグからのオファーはやってこない。
僕がマンションのエレベーター前に立っていると、実夏がやってきた。
僕は公立中、実夏は私立中なので最近会う機会が減っていた。
実夏は僕の持つ葉書気づき、
「陽にも来たんだね。私にも届いてた」
と実夏は、手に持っていた葉書を見せた。同じく白い家が映っていた。
「理沙、元気そうだね」
写真の中の理沙は、楽しそうに笑っていた。
*
小学生になってから聞いた話だが、実夏は理沙から引っ越すことを事前に聞いていたと言う。
理沙は実夏には話していたのに、僕には教えてくれていなかった。
「なんでオレには教えてくれなかったんだろうなー?」
と僕が言うと、実夏は怖い顔をして
「本っ当にバカ! 理沙はサヤカ先生にも会いたかったけど、あんたともずっと一緒にいたかったの!」
と僕の頭を叩いた。
幼い僕には、女の子の気持ちなど理解できるはずもなかった。自分が理沙に好かれていたとは一ミリも思っていなかった。
*
「北海道ってすげーな。こんなでかい家を建てられるんだな」
「そりゃあ横浜なんかより土地がいっぱいあるしね」
「一回行ってみたいなー」
「北海道は遠いよ?」
「なんとかなるんじゃね?」
まだ僕は中学生だ。大人にはなっていない。
しかし、今ならスマホもある。ちょっとならお金もある(BY お年玉)。
北海道ぐらいなら行けるような気がする。
そこまで話しているとエレベーターがやってきた。僕と実夏はエレベーターに乗った。
4階のボタンと、実夏の住む8階のボタンも押す。
扉はゆっくりと閉まった。
僕はクローゼットにしまったままのハンカチを思い出す。
「郵送でお返ししようかしら」と母は言ったが、「オレが会って返す」と言ったまま、未だに会うことはなく返せていないままだ。
今年の夏ぐらいに返しに行ってみようか。
エレベーターは4階に着き、僕だけが降りる。
「ねえ、陽」
背後からの声に僕は振り向く。
実夏はイタズラをする時のように口元が笑っていた。あまりいい予感はしない。
「なに?」
遠慮気味に僕は尋ねる。
「あのさ」
「んー?」
「今度はさ……」
「え?」
「今度は……、私も連れてってね?」
悪魔の微笑みを浮かべる実夏の言葉に、僕は苦笑いを返した。
エレベーターの扉はゆっくりと閉まった。
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