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マンションのエレベーターに乗り、僕と理沙は僕の家がある4階で降りた。
405号室の前に立ち、僕は理沙に
「ちょっと待ってて」
と言った。
セミロングの髪が舞うぐらいに理沙は大きく頷いた。
リビングに入ると、美月姉ちゃんがいた。
年の離れた中学生の姉は、テーブルに鏡を置いて、眉毛だかまつげだかをいじっていた。
「おかえり」
僕に視線を向けることなく美月姉ちゃんは言った。
僕もまた「ただいま」と言うと、姉には目もくれず、壁際の引き出しを開ける。
今年の年賀状を探すためだった。この引き出しにしまわれているはずだった。
サヤカ先生は、今年、年賀状をくれたはずだった。
「にいむら よう くん」
と宛名が書かれた年賀状を見つけ、その一枚を抜き出した。
「こだま さやか」
と書かれた差出人の横に書かれているのが「住所」であると言うことぐらいは敷いていた。ここにサヤカ先生は住んでいるのだ。
ひらがなで書かれたその住所を僕は頭の中で読み上げたが、
「かながわけん みうらぐん はやまちょう」
と書かれた場所がどこのことなのか僕にはわからなかった。横浜市でないことぐらいしかわからなかった。
「美月姉ちゃん」
「んー?」
相変わらず鏡に向かっている美月姉ちゃんに声をかけた。反応はしたものの僕の方へは振り向かなかった。
「葉山町ってどこにあるの?」
「葉山?」
「うん」
「夏休みに一色海岸行ったじゃん。あっちのほう。新逗子駅のほうが葉山」
僕は、去年の夏休みに家族で一色海岸にいったことを思い出した。
「そうなんだ」
「なんでそんなこと突然?」
「なんでもないよ」
僕はサヤカ先生の年賀状をコートのポケットにねじ込んで、「遊んでくる」とだけ告げて、玄関に向かった。
玄関に戻ると、置きっ放しだった美月姉ちゃんの定期を見つけた。僕はそれを拾うとその定期もポケットに入れた。
靴を履き「いってきまーす」と言った。
いつも僕が遊びに行く時のように。
美月姉ちゃんは「いってらー」とリビングから声をくれた。
いつも僕が遊びに行く時のように。
でも、今日は「いつも」とは違うのだけど。
僕は玄関の扉を開けた。
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