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玄関前で待っていた理沙は、どこか不安そうに顔をしていた。
「先生ん家の場所わかったからさ、一緒に来る?」
僕が言うと、理沙は大きな目を見開いた。
「行く! 私も陽くんと一緒に行く!」
理沙の声に僕は頷き、マンションを出た。
*
当時の僕は、横浜駅にあるサッカークラブに通っていた。
そのため、よくJRは利用していたので、電車に乗ることになる不安はなかった。
しかし、理沙はあまり電車に乗ったことがなかったらしく、
「子供だけで乗って大丈夫なの……?」
と不安そうな表情を見せた。
「大丈夫。これがあれば乗れるよ。美月姉ちゃんのだけどね」
と、僕は理沙にPASMOを見せた。
そして、僕は理沙の手を引いたまま、改札機にPASMOを置く。ゲートが開き、僕はそのまま改札口を通る。理沙もその後ろに続いた。
駅のホームに着くと、電車はすぐにやってきた。
僕が電車に乗ると、理沙もすぐ後ろに続いた。
「すごいね、陽くん」
理沙が言った。
「なにが?」
「パパもママもいなくても、一人で横浜に行くことができるんだね」
「いつもサッカーで一人で電車乗るからなー」
「横浜まで一人で行ってるの? すごい!」
「オレ、大きくなったらJリーガーになるから。で、日本代表になって、ワールドカップだってでるんだ。だから強いクラブで練習するんだ」
「……『じぇいりーがー』ってなに?」
「え……」
理沙は日本のサッカープロリーグの名前を知らなかった。
サッカーにはプロがあることを話しているうちに、横浜に到着した。
僕は理沙の手を引いて電車を降りた。 平日の午後でも横浜駅は人が多かった。
ここまでは何の問題もなかった。しかし、ここからは夏休みの記憶だけが頼りだ。
一色海岸に行った時は、美月姉ちゃんに手を繋いでもらって、横浜駅で乗り換えたはずだった。
どの路線に乗り換えたのか、僕は目を閉じて思い返す。
「陽くん……」
理沙の不安そうな声で、僕は目を開ける。僕が道に迷っていると思ったのかもしれない。
「大丈夫。こっちだよ」
僕は夏休みに乗り換えた路線を思い出し、理沙の手を引いた。
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