鶴ならぬ、狸の恩返し

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鶴ならぬ、狸の恩返し

 昔々あるところに一人の男が住んでおりました。  男は風の噂に"鶴の恩返し"という逸話を耳にします。 「ほぉ、助けた鶴が恩返しにくるとな。そんな上手い話があるのか」  男はすぐさま山に向かい、罠にかかった鶴を探し始めました。ですが、そう簡単に見つかる訳もありません。  男は山の中を探し回ります。 「えぇい。鶴などおらんでは無いか」  忌々しそうに吐き捨てます。  山に入ってどれくらい探したでしょうか。男は罠に掛かった狸を見つけました。 「この際、狸でも構わんか」  別に鶴にこだわる必要も無いだろう。  男は狸の足に食い込んだ罠を外してやりました。  狸は罠から逃れると、男に向かってペコリと頭を下げ、山の中へ消えていきました。 「恩返しにくるんだぞ。ワシの家は、山の麓だからな」  消えゆく狸の後ろ姿に、男は恩着せがましく声を掛けるのでした。  
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