紫紺の山

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テツは菊枝の背中に頷く。 横で膝を抱えたまま俯く琴乃は更に顔を伏せた。 そしてくぐもった声で話し始めた。 「私は母ちゃんに言われて新田(しんでん)竹道(たけみち)に抱かれた…。男ば知っちょる女は比布女にはなれんけんって…」 琴乃が涙声になって行くのがわかった。 「佐奈もテツとそげな仲になっちょるっちゃなかかって思っちょったとよ…。ほら、そうなれば村に比布女になれる女はおらんけん、こげな馬鹿げた風習は無くなるっちゃなかろうかって…」 琴乃は顔を上げてテツを見た。 「生贄欲しがる神様なんて、神様じゃなか…」 そう呟くとまた顔を伏せた。 自分が同じ立場だったらテツも菊枝や琴乃と同じような事をしたかもしれない。 そう思うと何も言えなかった。 「お前らもそげん思っちょるとか…。こげな馬鹿げた風習なんて無くなれば良かって…」 テツは傍らに置いたぼた餅をもう一つ手に取った。 菊枝はテツを振り返る。 そして琴乃も顔を上げた。 「ウチは達吉んところに行くばってん。三年後には妹が十五になるけん…。ハナもまた同じ目に遭うかと思うと…」 菊枝は目頭を袖で押さえながら言う。 「好きでんなか男に抱かれないかんような子、これ以上出しとうなかけん…」 琴乃は口を真一文字に閉じた。
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