紫紺の山

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やけに冷える朝、テツはその寒さで目を覚ます。 手拭を持って外に出ると、辺りは銀世界で、真新しい雪に草鞋が音を立てる。 「綺麗かね。佐奈も見ちょるやろうか…」 テツは北の山を見た。 山も真っ白に化粧をしていた。 「雪たいね。今年は厳しか比布男になるな…」 テツの後ろから声がした。 三造が同じように手拭を下げて立っていた。 そしてテツに微笑むと、井戸の水を汲み上げて顔を洗った。 テツも三造の横に来て顔を洗う。 その冷たさに顔が痛い。 しかし、こんな冷たい水で水垢離をする佐奈の事を考えると感慨深いモノがあった。 手拭で顔を拭いていると、三造が声を掛ける。 「後でお前に渡したいモノがあるとよ…。山に入る時に必要やけんが…」 そう言うと家に入って行った。
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