紫紺の山

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「昔の人が一旦始めた事ば、終わらせるっちゅうのは難しかったいね…。相当勇気のいる事たい」 三造は山女魚を食べ終えて箸を置いた。 「もし、オイが今年でこの比布女を終わらせたとしよう。ばってん、それでオイだけやなか…。母ちゃんも、お前も、妹の(みどり)も村八分にされるかもしれんったい。こん村じゃ生きて行けん様になる」 酒を飲み干すと力強く叩きつける様にその湯呑を囲炉裏端に置く。 そして横になった。 「比布女なんて止めたいって思っちょる人はもっともっとおるかもしれん…」 テツは拳を握りしめて震えながら吐き出す様に言う。 「かもしれんな…。佐奈の父親の清滝(きよたき)もそう思っちょるやろうな…」 三造はテツに背中を向けた。 「とにかく、今年の比布女は佐奈で決まりたい。お前は佐奈を背負って山に入る。決まった事はそれだけたい…」 テツは握りしめた拳を解き、力なく俯いた。
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