紫紺の山

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比布女を背負い山に入る男を比布男(ひふな)と言い、比布女が決まった日から二人は会う事も許されない。 それどころか、比布女は外出も許されず、三十七日の間、甘露様に奉納された食べ物だけで過ごす。 そうやって身体を清め、山に入る十二月十二日に備える。 元々十二の付く日は禁忌とされ、山には誰も入る事が出来ない。 特に、十二月十二日はその中でも特別な日で、山のモノを口にする事も禁じられていた。 しかし、この村ではその禁忌の日に比布女を背負い比布男が山入り、山頂近くにある祠に比布女を置いて来る事になっている。 テツの父親である三造も、十五の時に比布男を務めたと言う。 桜という女を背負って山の祠まで行ったとテツに話した事があった。 「オイは桜ば好いちょったけん…」 暮れた紫紺の山を眺めながら、テツにそう言っていた。
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