紫紺の山

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「テツ…」 翌日、畑の野菜を取っていると後ろから声が聞こえた。 そこには菊枝と琴乃が立っていた。 「おお、お前ら…。どげんしたとや…」 テツは一瞬躊躇ったが、無理に明るく微笑んだ。 「比布男は何でも食えるっちゃろ…」 琴乃は手に持った竹皮を開いて、真っ赤なぼた餅を見せた。 三人は日向の暖かい場所を探して草の上に座った。 「佐奈は私らん事ば恨んどるやろうか…」 菊枝が遠くの林を眺めながら言う。 テツはその言葉に何も返さずに黙ったまま、ぼた餅を頬張る。 「三人の誰に決まっても恨みっこなしって佐奈が言うとったっちゃけん…」 琴乃は膝を抱えて俯いた。 「菊枝…。嫁に行くらしいな…」 テツは手に持ったぼた餅を口の中に放り込んだ。 「うん…。追方の達吉のところ」 菊枝はゆっくりと立ち上がって空を見上げる。 「本当の事ば言うと、そげん達吉の事は好きじゃなかとよ…。ばってん比布女になるくらいなら、祝言挙げた方が幸せやろうって父ちゃんが決めたとよ…」
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