310人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
闇しぐれ
しまった、と思った。
遅くなった帰り道。
小道に折れ込んで近道を試みたのがいけなかった。
一本道の向こう、数人の男が歩んでくるのを、おしずは見とめた。
聞こえてくる談笑の大声は、酒に泥酔している声そのものであり。
(どないしようか)
ひとつ前の小路まで引き返すにはだいぶ戻らなくてはいけない。
だがあんな酒酔い輩にからまれてはたまらない。
(ええわ。引き返そう)
そう決めて、踵を返した時、背後から大声が鳴った。
「そこの女、待て!!」
おしずは舌打して、急ぎ走り出した。
この状況で、待てと言われて待つ阿呆がいるわけがない。
「待てと言うとるだろう!!」
西国なまりの大声が小道いっぱいにわななき、追って来る数人の足音が汚く響き。
おしずは懸命に駆けたが、男の足は酔いにあっても速く。あれよこれよといううちに追いつかれてしまった。
腕を掴まれて、顔を背けるおしずを、
「何故逃げた?え?」
嘲笑が包んだ。
酒臭い息がかかり、おしずは眉をひそめた。
「べつに。急いでて、道を引き返しただけや」
「ほう、悪いが少し時間をくれないかね」
最初のコメントを投稿しよう!