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冗談じゃない。おしずは嫌悪感を隠し、慇懃丁寧に首を傾げてみせた。
「すんまへんなあ。うち、早う帰らなあかんのどす、かんにん」
「いいから言うことを聞け」
腕を掴んでいた目の前の男に突然、裾を捲くられ、おしずは咄嗟に足を上げて、男の股間を強かに打った。
「みっともないまね、しはるもんやないわ!」
「この女っ・・」
蹴られた男が地面に蹲り、うめいた。周りの男がやんややんやと騒いで面白がっている。
「お主やるじゃないか、噂に聞いてた京女らしくないな」
「うち急いでますの、ごめんやっしゃ」
「まあ待て」
さっと身を翻したおしずの背をもうひとりの男が羽交い絞めた。
「何すんのや・・!」
色をなして叫んだおしずの襟に、手が差し込まれ、
「やっ!」
おしずが慌ててその手から逃れようとした時すでにその手は、財布の束を掴んでいた。
「・・なんと」
男のほうも手に偶然掴んだ物に驚いた様子でおしずを見やった。
「お主、掏りが生業か」
「なんだと」
他の男たちが近寄って、おしずの襟元から出てきた財布の束へ目を走らせる。
「それやったら何やていうの?返しとくれやす!」
「お主のような女には仕置きをせないかんな」
「なっ・・」
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